プリオン仮説

ヒトの伝達性海綿状脳症(TSE)の存在は1920年あたりから報告されていましたが、原因物質などに関しては分かっていませんでした。それが、1960年あたりから伝達実験の成功や、羊のスクレイピーとの類似の指摘がなされました。
そして、プルシナーが「プリオン仮説」を提唱したのは1982年です。彼はハムスターの脳乳剤をいろんな方法で精製しているうちに、感染性に非常に富むにも関わらず核酸をほとんど含まない画分の分離に成功しました。この画分は、主として蛋白質から成っていたため、「感染性のある蛋白質粒子」すなわちプリオンの存在が提唱されたのです。
 
当然主張を始めたときは批判の矢面に立たされたわけですが、多くの研究者が追試や更なる研究を重ねるうちに、プリオン仮説はTSEにおいて、最も説得力のある仮説となりました。
 

プリオン仮説が支持される理由

ウイルスなどの遺伝情報はDNAやRNAなどがコードしており、それを受け継いでいくことで自己の情報を次代に伝えます。TSE病原体からは核酸が全く、もしくはほとんど見つかりません。

  • 物理化学的処理に対する抵抗性

ウイルスや細菌なら死滅するシビアな状況に晒しても、なかなか感染性がなくなりません。
 

プリオン仮説では説明できない謎

  • 「株」の存在

プリオンには「株」が存在します。毒性(潜伏期間とか)の差やウエスタンブロッティング(WB)時のバンドパターンの違いなどで株のタイピングが可能です。
プリオンには遺伝物質が存在しないので、性状が安定して受け継がれていくことは納得しがたいのです。
同じPrP遺伝子から生まれたPrPがプリオンの構成要素となるなら、その性状が生物学的に異なることは説明が難しいです。
3次元構造や糖鎖の関与が疑われていますが、プリオン仮説の不可避の命題というやつですね。